インプラント治療における解剖学的(どこにどんな神経、血管、構造物があるか)重要点
歯科インプラント治療は、基本的に外科的な歯科治療ですので、インプラント歯科医師は、口腔、顎、その周辺についての解剖学的知識(どこに、どういう血管、動脈、静脈、神経、筋肉、骨などがあるか)を完璧に理解した上でなければ、このインプラント歯科治療は恐ろしくてできません。
ということで、歯科インプラント治療をする上で、よく問題になる解剖学的な部位について取り上げようと思います。
まずは、基本中の基本の下顎に関しては、下歯槽動脈、下歯槽神経が一番大切です。
下顎の骨のなかには、細い管状の穴、空洞があいているところがあります。下顎の骨の奥から、前方の中央に向かってこの管が走っています。これを、歯医者は、下歯槽管または下顎管と呼んでいます。
脳からきた神経、動脈は、途中に色々な過程を経て下顎の骨のこの下顎管のなかに入ります。この下顎管は、奥歯(臼歯3本と小臼歯1本)の根っこの先端より少し離れた下側を走っていて、通常は、前歯から数えて5本目にある小臼歯の根っこの先の数ミリ下の下顎の骨の表面に、開口部、つまり骨に丸い穴が開いていて、この下顎管の終りが、その穴、開口部です。この開口部を、歯医者は、オトガイ孔(おとがいこう)と呼んでいます。
ということは、下顎管の中の神経は、その下顎管を通ってオトガイ孔から、顔の表面近くに出てきて、それが、下唇(したくちびる)や顔面の下部の皮膚、粘膜の感覚、冷たい熱い、触られたなどの感覚を感じる神経になっています。
歯科インプラント治療を行う上で、この下歯槽管、その中にある下歯槽動脈、下歯槽神経が重要となります。
なぜならば、この下歯槽管に、ドリルでインプラントを入れるための穴を削る時に、触れないようにしなければならないからです。もし、この下歯槽管にドリルが触れると、下唇と顔面下部の皮膚、粘膜の知覚がなくなる、または鈍くなってしまいます。
そういうことから、インプラント歯科医師は、かなり慎重にドリルで骨に穴をあける起始点(きしてん、骨に最初にドリルで削るところ)から、下歯槽管までの距離を計ります。この際は、歯科用CTが一番誤差が小さく、また、画像上の下歯槽管を見誤ることなく計れます。
誤差の範囲、安全域を考慮した上で、削る深さを決めます。
下顎の骨から離れた内側(口腔底で下顎につながる部分)は、神経ではなくて、動脈に注意が必要な部位です。オトガイ下動脈や舌下動脈などの厄介な動脈がたくさんあります。口腔底は口腔(口の中)の床の部分です。天井が口蓋ということになりますので、床は、舌を持ち上げた時に下にあるのが口腔底ということになります。口腔底は、上記の動脈を含め、色々な血管、神経が存在し、見にくく、口をどれだけ開けれるかなどの問題もあり、とても処置がしにくい場所です。これも、歯科用CTで画像を見て、立体的イメージを頭に入れたインプラント歯科医師が行えば問題ないとは言えますが。
上顎に関しては、よほど大多数のインプラント歯科医師の常識から離れたことをしなければ、問題になる神経、動脈、構造物はありません。
強いて言うなら、後上歯槽動脈(こうじょうしそうどうみゃく)です。
この後上歯槽動脈は、副鼻腔のひとつである上顎洞を構成する骨の中に存在することがあります。サイナスリフトというインプラント埋入法を行なう時に、この後上歯槽動脈を切断する可能性がありますが、切断してもインプラント歯科医師の誰でもできる処置をすれば、少し時間を要しますが、問題なく解決します。また、ピエゾサージェリーという超音波の振動で骨を削る器械を使えば、後上歯槽動脈を切断することもなくなります。
以上がインプラント埋入における解剖学的な重要なポイントです。