審美的なインプラント治療 特に前歯において
前歯のインプラント治療
奥歯のインプラント治療も前歯のインプラント治療も、基本的には同じですが、少し違うところもあります。
では、どこが少し違うかというと、それは前歯のインプラント治療においては、審美的な面をかなり考慮して治療を行わなくてはならないということです。
奥歯のインプラントでも、もちろん審美的な要素は大切ですが、ほとんど見えない角度や面もありますし、本当の奥はまったく見えません、また、ちょっと奥は時々チラッと見える程度です。
しかし、前歯、特に上顎の前歯はよく見えます。また、唇のラインも人それぞれ、そして歯ぐきのラインも個人差が大きいですが、唇のラインが割り合い上の方にあり、また上顎の歯と歯ぐきの境目のライン(歯ぐきのライン)が下の方にあれば、歯と歯ぐきの形、色がもろに見えます。その場合、シビアーな審美性がインプラント治療においても求められます。
では、どうすれば審美的なインプラント治療が行えるか?
唇のラインを変えるには、唇の美容外科的な手術が必要となりますので、そのラインを変えることは複雑になり、下顔面のすべてを変えれば理屈的にはできるのかもしれませんが、私は、歯科でも美容外科でも、この唇のライン(リップライン)を上下に動かすのに成功したということを聞いたことはありません。
では、歯ぐきと歯の境目のライン(歯ぐきのライン)をインプラントを埋入する部分の前後の歯になめらかに、そして左右対称となるようにすることが、審美的には大切ですが、これをいかに達成するかということが問題となります。
そんなこと簡単ではないかと思われる方がほとんどだと思いますが、これは大変難しいことです。なぜならば、歯を抜いた部分の歯ぐきの形は、変化するからです。つまり、いったん歯が抜かれると、今まで歯を支えてきた歯槽骨は、ある意味役割を終え、そして吸収してくるからです。歯槽骨が吸収するということは、体積的に小さくなり、それにくっついている歯ぐきも引っ張られて、くぼみができ、へこむからです。そうすれば、インプラントを入れる位置も、抜く前の歯の根っこがあった位置にはもう骨がないわけですから、骨がある位置まで少し深い位置にインプラントを持っていかなければならなくなり、その結果、人工歯は左右対称にはできなくなります。
では、いかにして、左右対称に人工歯がくるようにインプラントを埋入するか。
その一つは、抜歯した後、時間を置くから歯槽骨が吸収するわけですので、抜歯と同時にインプラントを埋入すれば、そして、そのときにひと工夫(このひと工夫の仕方を知らないインプラント歯科医師は、抜歯と同時にインプラントを埋入できるわけがないと言っているようですが)すれば歯があった時と同じ歯ぐきのライン(歯肉ライン)が維持できます。もちろん抜歯適応の歯を、長期間抜歯せずにそのままにしておくと、その間に歯槽骨が溶け、歯の根っこは歯槽骨に埋まってなく、歯ぐきの中に浮いた状態となっていますので、こういう場合はこの方法でも難しくなりますが。
では、もう抜歯がされてしまっている場合はどうすればいいか?審美的に問題になるのは、たいていは上顎の前歯です。上顎の歯槽骨はかなりの弾力性があります。従って、歯槽骨に深い溝を入れ、マイナスドライバーみたいな形のもので、グニョグニョと前後に少しずつ広げていくと歯槽骨を動かすことができます。そして、人工骨で隙間をうめれば、吸収した歯槽骨をまた盛り上げることがある程度できます。そしてその上で同時にインプラントを埋入すれば歯肉ラインもきれいになります。
では、これでも無理なら自家骨移植となります。自家骨移植とは、インプラントを入れる部位と離れた部位から、骨を切り取って、その骨をインプラント埋入部位に移植するものです。この骨を採取する部位としては顎の離れた部位、腰の骨などが選ばれます。この骨の採取の手術を含むインプラント治療では、強い痛みと腫れが起こることが多く、患者さんにとっての負担は大きいです。ですので、これは、私と私が属するインプラントのグループでは最後の手段としています。また、この自家骨移植を受けた大多数の患者さんは、このインプラント治療の後、他の天然歯を失った時、2度とインプラント治療を受けたくないと言われます。
しかし、多くの、日本のインプラント歯科でも有名なグループでも、この自家骨移植が、第1選択となっていることが多いようです。
インプラント治療においては、そして、特に上顎前歯のインプラント治療においては、審美的な治療は重要です。しかしながら、インプラント歯科界においては、いかにしてその審美性を回復したインプラント治療をするかについての多数のインプラント歯科医師が合意する治療の方法、そのプロセスは現在はありません。それぞれのインプラントのグループの属するインプラント歯科医師の話を聞いて、患者さん自身が選択するしかないのが現状です。